はじめに
社内でAI活用の方針を検討していると、「AIガバナンス」という言葉に行き当たります。経営層への説明資料や社内規程の整備を進めるうえで避けて通れない概念ですが、適用範囲が広く、抽象的に語られがちな概念でもあります。
この記事では、AIガバナンスという言葉の意味と、参照される主な枠組み、そして情報システム部門の実務にどのように関わるのかを解説します。
AIガバナンスとは
AIガバナンスとは、組織がAIを適切に活用するための方針、体制、プロセスの総称です。まず、AIをどのような目的と範囲で使うのかを方針として定め、利用ガイドラインやデータの取り扱い基準、承認プロセスを整えます。
その方針を運用するには、AI利用を判断して承認する責任者や委員会も必要です。ルールを周知し、利用状況を把握したうえで、定期的に内容を見直します。
「ガバナンス」という言葉から大掛かりな仕組みを想像しがちですが、中核にあるのは「誰が、何を基準に、AIの利用可否を判断するか」を決めておくことです。組織の規模に応じて、簡素な形から始めることができます。
セキュリティとの関係
AIガバナンスはセキュリティより広い概念で、倫理、公平性、透明性、法令遵守なども含みます。ただし情報システム部門の実務では、セキュリティに直結する部分が中心になることが多いでしょう。
具体的には、データの保存場所や学習への利用有無を確認し、利用を認めるAIサービスの選定基準を設けます。AIを組み込んだシステムを導入または開発する際の確認プロセスも整えます。
つまり、既存の情報セキュリティ規程と併せて、AI利用に関する規程を追加していく作業が、実務上のAIガバナンス整備の入り口になります。
参照される主な枠組み
ルール整備にあたり、ゼロから考える必要はありません。参照できる公的な枠組みがいくつか存在します。
AI事業者ガイドライン(経済産業省・総務省)
日本国内でAIを開発・提供・利用する事業者向けの統合的なガイドラインです。AIを「利用する」立場の企業向けの記載もあり、社内ルールを作る際の参照元として活用できます。
ISO/IEC 42001
AIマネジメントシステム(AIMS)の国際規格です。情報セキュリティマネジメントの規格として広く知られるISMS(ISO/IEC 27001)のAI版と考えると位置づけが理解しやすく、認証取得を目指すかは別として、管理項目の網羅性を確認するチェックリストとして参照できます。
NIST AI RMF
米国の国立標準技術研究所(NIST)が公開しているAIリスクマネジメントのフレームワークです。リスクの洗い出しと管理の考え方が整理されており、グローバルに事業展開する企業でよく参照されます。
いずれも「すべてに完璧に対応しなければならないもの」ではありません。既製サービスの利用が中心なのか、自社開発も行うのかなど、自社のAI利用の形態に応じて関係する部分を参照すれば十分です。
小さく始めるための3ステップ
最初から完璧な体系を作ろうとすると、整備自体が立ち止まってしまいます。まずは情報システム部門が中心となり、以下の手順で小さく始めることをお勧めします。
- 社内でどのAIサービスが、どの業務で使われているかを把握する
- 会社として利用を認めるAIサービスの範囲と、新しいAIサービスを使いたい場合の申請・相談窓口を決める
- ルールを周知し、利用の広がりに応じて半年〜1年単位で見直す
「判断の窓口と最低限の基準」を設け、実運用の中で育てていくアプローチが長続きの秘訣です。
まとめ
AIガバナンスとは、AIを適切に使うための方針・体制・プロセスの総称です。実務上の入り口は、「利用を認めるサービスの範囲」と「利用可否を判断する窓口」を決めることにあります。AI事業者ガイドラインやISO/IEC 42001といった公的な枠組みを参照しつつ、自社の利用実態に合った規模で段階的に整備を進めましょう。
社内リソースだけで体制を構築するのが難しい場合は、知見を持つ外部専門家のサポートを活用することも有効な選択肢です。
体制づくりを外部の専門家と進めたい場合
セキュリティチーム代行サービス
社内にセキュリティの専門人材がおらず、AI利用ルールの整備や運用を進めにくい場合は、弊社のセキュリティチーム代行サービスをご検討ください。外部の専門チームとして、ルール策定から運用の定着までを継続的にご支援します。
脆弱性診断サービス
AIを組み込んだシステムの導入・開発を予定している場合は、脆弱性診断サービスによるリリース前の診断にも対応しています。お気軽にご相談ください。